『岩崎史奇のコントな文学』

 『笑い』と『人間』を書いているコント文学作家です!

コントな文学『やめてよ、お母さん』

私が10才の時、父が他界した。
私の家は私とお母さんのふたりぼっちになった。

私は中学、高校と年齢を重ねる毎にお母さんに対して腹を立てたり、恥ずかしい、みっともないと思うようになっていった。
思春期の反抗期だけが理由ではない。


「やめてよ、お母さん。駄菓子のBIGカツをおかずに白飯食べないで」

「やめてよ、お母さん。私が中学で使ってた体操着を私服にしてスーパーに買い物行かないで」

「やめてよ、お母さん。恥ずかしいから夜中に駅前で路上ミュージシャンしないで」

「やめてよ、お母さん。自分で髪切って失敗してんじゃん。それはベリーショートじゃなくて、角刈りだよ」


学校から帰るとリビングでお母さんが倒れていた。
私は意識の無いお母さんの体を揺すりながら声を掛けた。
「やめてよ、お母さん。私を1人にしないで」


お父さんは多額の借金を残したいた。
朝は清掃業のパート。
昼はテレアポのアルバイト。
夜は路上ミュージシャン。
お母さんは自分の食事代も洋服代も散髪代も節約して朝から晩まで掛け持ちで働いて借金を返済しつつ私を育ててくれていた。

お母さんに対して腹を立てたり、恥ずかしい、みっともないと思う一方でお母さんばかりに負担を掛けている自分の非力さに腹が立つ。
何もしてあげられない事が恥ずかしく、みっともなかった。


お母さんは充分な栄養が取れていない状態と過労が原因で倒れただけだった。
「また倒れられたら困るから私、バイトする」
アルバイト代で学費と家計の負担を減らしてあげる位しか高校生の今の私にできる事はないと思ったのだ…


その後、お母さんは角刈りシングルマザーの路上ミュージシャンというトリッキーなスタイルがSNSで話題になりメジャーデビュー。

一躍時の人になったお母さんはお父さんの残した借金を全て返済した。

高校を卒業した私の夢はお母さんと同じミュージシャンなのだが…
「あんたも角刈りにしてみれば?」
「やめてよ、お母さん。角刈りだけは絶対に無理」