『岩崎史奇のコントな文学』

 『笑い』と『人間』を書いているコント文学作家のブログ

日本一のサッカー選手の秘密の夢

コントな文学『日本一のサッカー選手の秘密の夢』



子供の頃からの夢が叶ってJリーガーになった俺は高卒ルーキーのプロ1年目からJリーグ得点王とアシスト王に輝いた。


そしてオリンピック日本代表メンバーにも選出され日本サッカー史上初の金メダルを獲得した。
優勝に大きく貢献した俺は大会MVPに選ばれた。


若さと才能と実力を兼ね備えた俺は、ヨーロッパのビッグクラブへ移籍して強豪リーグで切磋琢磨し、さらなる成長とワールドカップで日本を初めてのベスト8以上へ導いてほしいという期待を日本中から掛けられている。


既にバルセロナアーセナルバイエルン・ミュンヘンなど有名なビッグクラブから獲得オファーの噂があり、所属しているJリーグクラブのフロントも高額な移籍金を設定していると耳にした。


サポーターは俺に残留してほしいと思いつつ、ビッグクラブで活躍する姿も見たいし、当然いつかはヨーロッパのクラブに移籍するだろうと思っている。


まだ1年目で移籍前なのに、いつかヨーロッパから戻ってきて最後はJリーグでプレーしてほしいと今から話している気の早いサポーターまでいる。


周りは俺に向かって、どいつもこいつも
「どうせいつかは海外行くんでしょ?」
「どうせ海外に行きたいんでしょ?」
って顔してやがる。


所属するJリーグクラブのサポーター、フロント、海外のクラブ、そしてワールドカップの時だけ騒ぐようなにわかサポーター。
プロ、アマ、ファン、マスメディア…
全てのサッカー関係者が当然、俺が海外のクラブに移籍するという前提でいるのだ。


それはサッカーに限らず野球でも他のスポーツでも
同じだろう。
高額な年俸、自身の成長と飛躍を求めて海外のレベルの高いチームやリーグへ移籍する。

現代では、それが当たり前になり過ぎている。


だからこそ、俺は世間に対して『本人を置き去りにして周りが勝手に決めるな』と言いたい。

実は…

俺は…

本当は…

ずっと日本に住み続けたいんだ!


海外のクラブに移籍したいなんて一言も言っていないし思った事もない。
金やサッカー選手としてのステータスや高みよりも俺は日本に住み続ける方を選びたい。

ヨーロッパに移籍したくない理由を箇条書きしてみた⬇

・治安が不安だ

・メシが不味そう(日本人の口に合う店が少そう)

・自炊は面倒臭いし栄養バランス考えたメシなんて作れない

・外国語なんか勉強したくないし日本語喋りたい

・海外に友達いないから海外行ったら淋しい

・コンビニでジャンプ立ち読みできない

・美味しいラーメン屋、寿司屋、焼肉屋行けない

・好きなドラマはリアルタイム視聴したい

・観たい映画あっても映画館行けない

・好きなアーティストのライブに行けない

・彼女欲しいのに日本人女性との出会いが減る

・料理だけじゃなくて掃除も洗濯もしたくない。できれば実家に住みたい・・・



そんな事、正直に世間に言えるか?
海外には代表戦と旅行の時だけ行きたいなんて世間が許してくれるか?
絶対に言えないし、誰も許してくれないさ。


自分の心に正直に生きる為に、ビッグクラブからのオファーを断って日本に残っても、世間から叩かれ過ぎて日本で生きていけなくなりそうだ。


わざわざ海外に移籍しなくても、Jリーグでも充分に成長できると思っているし収入だって満足している。
そしてJリーガーとして日本代表戦で頑張ってワールドカップで優勝したい。

それが本音なんだけど、誰にも言えない…



2年後。
世間体を気にしてヨーロッパのビッグクラブに移籍した俺はサッカー日本代表の中心選手として活躍しワールドカップで日本を初のベスト8に導いた。


20代半ばで名実ともに日本一のサッカー選手と呼ばれるようになった俺は4年後のワールドカップで日本をベスト4以上に導く事を期待されている。


つまり、まだまだ世間が日本には帰らせてくれなさそうだ。
次のワールドカップで優勝するか30代になったら許してくれるのかな?


子供の頃からの俺の夢はJリーガーでした。
そして夢が叶ってJリーガーになりました。
今は不本意ながら海外のクラブに所属しているフットボーラーです。


今の俺の夢もJリーガーになる事です。
早く日本に帰って、日本で住んで、できれば生まれ育った地元にあるJリーグクラブに所属して実家からスタジアムに通いたい。
アウェーの試合の時は県外で美味しい料理を食べたり、観光を楽しみたい。


秘密の夢に向かって今日も俺はサッカーを続けている。