『岩崎史奇のコントな文学』

 『笑い』と『人間』を書いているコント文学作家のブログ

コントな文学『心配性 in サンポートホール高松』


コントな文学『心配性 in サンポートホール高松


僕は心配性だ。


心配性な僕は今日、ヒット曲が1曲だけのシンガーソングライターのライブに来た。


有名なヒット曲が1曲しかない。
しかも3年前の曲なのに地方の1500人キャパのホールが埋まるのか心配していた。


せめて1000人以下のキャパのホールでやった方が無難じゃないのかと心配したけど、8割以上埋まった客席を見て僕は一安心した。


だが、次の心配が僕を襲う。


唯一のヒット曲をライブの何曲目に歌うのか心配になってきたのだ。


セットリストを決める会議で「1曲目からいきなりアレ歌って盛り上げませんか?」とか言い出すバカなスタッフがいたらどうしようと心配になる。


もし採用されて1曲目から唯一のヒット曲を歌ってしまったら、目的を果たしてお客さんが一気に帰ってしまう可能性が心配だ。


じゃあライブの中盤だったら良いのか?


いや中盤でもまだ早い。
ヒット曲は1曲しかないのだ、やるなら後半だろう。


しかしアンコール前に唯一のヒット曲を歌ってしまうと、誰もアンコールしなくなるんじゃないかと心配になってくる。


一方でアンコールまで唯一のヒット曲を歌わなかったら、アンコールでも唯一のヒット曲を歌わないかもしれないって心配も出てくる。


もしも唯一のヒット曲を歌わないままライブが終了してしまった場合、チケット代は返金してもらえるのか心配になってきた…



「次が最後の曲になります、聴いてください…」


結局、シンガーソングライターは最後まで引っ張ってから紅白でも歌った唯一のヒット曲を歌い始めた。


しかし僕の心配のナナメ上をいく弾き語りのアコースティックバージョンだった。


唯一のヒット曲をアコースティックバージョンで歌い終わりステージを去るシンガーソングライター。


僕は、いや僕達は本気でアンコールした。
アコースティックバージョンでは元が取れないと心配したからだ。


アンコールに応えてシンガーソングライターがステージに戻ってきた。


そしてアンコールの最後の曲になって唯一のヒット曲を、あの国民的大ヒットソングを普通のバージョンで歌ってくれた。
客席が喜びと安心と歓声に包まれた。


だが、1回目のサビはマイクを客席に向けてお客さんが大合唱するパターンだった。


もしかして全てのサビを客が歌うパターンなのかと心配したが、その後のサビはシンガーソングライターがキッチリ歌ってくれた。



色々と心配事が多いライブだったが結果的には大満足だった。


友達が一緒に行きたいと言うから付いて来たけど、唯一知ってるヒット曲以外もライブの生演奏で聴くと、良い曲ばかりに思えたので帰りに物販コーナーでアルバムを買った。


「朝から3軒巡ってさぬきうどん食べてきました」と地方公演ならではのリップサービスを交えたMCも好感が持てる人柄が滲み出て好きになった。


またツアーで高松に来たらライブに行こうと思う。


そして僕はライブ中、ずっと一人暮らししてるアパートのエアコンのスイッチを切ったのか心配だったので家路を急いだ。